刑務所獄中記【人の不幸は甘い蜜】刑事施設拘束1530日

自分よりも不幸で不運な人がいることを知ることで、悩んでいる人や迷っている人に少しでも元気を与えることが出来れば良いなと思います

初公判、傍聴席は既に満席にも関わらず立ち見者が出る始末⑱

初公判前日のコンクリートジャングルでの

単独運動時に、4畳程の運動スペースをグル

グルと歩き回りながら、被告人質問でN弁護

士から質問される返答を何度もシュミレーシ

ョンしていた。N先生からは、丸々暗記する

必要はなく、自分の言葉で言いたいならそう

してもらって構わないと言われていたが、N

弁護士が考えてくれた返答を証言する方が判

事の心証は絶対に良いと思ったので丸暗記し

た。返答は全て覚えて何度もシュミレーショ

ンしているので上手くいく自信はあったが、

今までの人生で公判は始めてなので、何人位

の傍聴者が来るのか、傍聴マニアは来るのか

、被害者やその家族、友人、知人などは来る

のかとそればかり考えていた。そういった傍

聴者達を通して事件が明るみに出ないことを

祈るばかりだった。初公判当日よく眠れた。

思っていた程緊張はしていない。罪を認め、

服役し、今後は真人間として人生を歩んでい

きたいという気持ちが芽生えていた。裁判を

待つ為の仮監で久しぶりに人とゆっくり話し

をすることができたので気は紛れたが、他の

被告人達と比べても自分の事件は凶悪事件の

部類に入るので、裁量の重さを強く意識せず

にはいられなかった。いよいよ自分の番にな

った。裁判所の裏の廊下を歩き、刑務官から

連行されて法廷へと向かう。被告人専用の入

退室ドアから入室して目に飛び込んできたの

は、傍聴者の多さだった。席は満席で、座れ

ないにも関わらず、次々と傍聴者が入ってく

る。立ち見しようとしてしていた人もいたの

で、流石にそれは許されず、刑務官が法廷の

外へと溢れた人を退出させていた。事件自体

報道もされていないが、ここまで人が入ると

いうのは、世間の人達が強盗という凶悪事件

を起こした人間がどんな奴なのか大きな興味

を抱いていると痛感した。両側を刑務官に挟

まれて着席したと同時にワッパを外された。

後ろを振り向くとN先生が頑張ろうという様

に頷いてくれた。判事の「被告人は前へ」と

いう言葉で証言台へと立った。「人定質問」

から始まり、「起訴情朗読」、「黙秘権等の

通知」、「被告人、弁護人に対しての被告事

件について陳述する機会」、「検察官からの

冒頭陳述」、「検察官の証拠調べ請求」、

「被告人側からの立証」の順に淡々と行われ

た。起訴状朗読が始まる前に一旦被告人席に

座るように判事から指示された。その際に傍

聴席を横目で必死になって見渡したが、前列

に◯◯警察署の1課のデコがいるだけで他に

知っている顔はなかった。被告人質問も一切

間違えることはなく、ハキハキと大きな声で

弁護士からの質問に応えた。傍聴者の中には

録音をしたり、メモをしたりしている人がい

た。初公判が終わった後、直ぐに弁護士と面

会をした。被告人質問を一字一句間違うこと

なく証言したことに対して関心している様子

だった。録音したり、メモをとっている人達

は何者なんだと聞いたところ、将来法曹関係

の仕事につきたいと思っている人達がほとん

どだから気にしなくても大丈夫と言われた。

全体的には上手くやれたと思ったが、それに

してもぐったりと疲れた。「次回、第2回目

公判(結審)は3週間後になるので、頑張り

ましょう、今日は緊張したと思いますが、よ

くやったと思います、ゆっくりと休んで下さ

い」と労いの言葉をかけられた。