刑務所獄中記【人の不幸は甘い蜜】刑事施設拘束1530日

自分よりも不幸で不運な人がいることを知ることで、悩んでいる人や迷っている人に少しでも元気を与えることが出来れば良いなと思います

くだらない理由の喧嘩で5回目の懲罰となる㊼

約1週間ぶりにG工場へと戻ってみると、

すっかり"ヒヒ”帝国"となっていた。

考査の時以上に皆が声を張り上げていたし、

指先や通路を曲がる時などの所動作は徹底さ

れていた。キモかった。閉鎖ユニットの正担

が言っていた通り、ヒヒから皆の前で「所動

作が皆に比べて遅いんだよ、しっかり合わせ

ろ」と整列の際怒鳴りつけられたので、、ア

バイスに従い、「すいません」と言った。

作業中にヒヒから名前を呼ばれたので、「ハ

イ離席します」と言いヒヒのいる後方へと向

かった。するとヒヒが、「向こう(閉鎖ユニ

ット)で何を言ったかは分からないが、お前

は俺に噛み付いてきたりはしないだろうな」

と聞いてきたので、「はい、そんなことはし

ませんよ」と答えた。恐らく俺がヒヒから上

げられて連行されている時に言ったことを気

にしているのだろうと思った。偉そうにして

いる割には気が弱えんだなと感じた。話しが

急に変わり、「真面目にしている者からし

らお前みたいに適当にしている奴は迷惑なん

だよ」と言われたので黙って聞いていたら、

急に制帽を脱いで「職員と受刑者の関係では

なくて、1人の人間対人間として言っている

んだよ」とお寒いことを言ってきた。髪は細

くペチャンコで禿げるんだろうなぁと考えて

いた。俺が何にも答えないので、眉間に縦皺

を3本作り眼力を入れて睨みつけるように、

じぃっと俺の目を見てくる。全然迫力も無い

し、ただただキモかった。ちょうどその時に

工場に統括が巡回に来た。ヒヒが素早く制帽

をかぶり、「ウェッ」と挨拶をする。すると

統括がヒヒを俺から遠ざけて何か話してる。

盗み聞きしたら、統括がヒヒに「真面目にや

る様に言っているから、そこまでしなくても

あいつは大丈夫だから」というニュアンスの

事を言っていた。統括が工場から出ていった

後にヒヒがこちらに向かってきて、「向こう

でどういう話しをしたか分からないが、今回

は目をつぶってやる」と言ってきたので、

「すいません、ありがとうございます」と軽

く頭を下げた。どういう話しをしたのかを凄

く気にしていて探りを入れてくるのが分かっ

たが、気付いていないふりをしてその場をや

り過ごした。自分の出世の事しか考えていな

いし、何よりも小心者だなぁと感じた。前の

工場が同じだったり、娑婆で似た様なシノギ

や遊びをしている者は何人かはいたが、ホー

ルでダラダラ話しをするよりも、自室で本を

読んだりする方が自分の為になると思ったの

で、誘われたりしない限りは基本的には自室

内で過ごしていた。一般の工場は人員が40

〜50人程になるが、今回の職訓は35人程だっ

たにも関わらず、ホールでの話し声が非常に

うるさかった。20代前半の仲良しグループの

高笑いは特にうるさかった。巡回担当からも

何度もうるさいと注意を受けることになり、

それがヒヒの耳に入った。一般工場であれば

工場長や世話役が存在するので、その人達が

注意をするのが当たり前なのだが、G工場で

は上下関係が生じるのを防ぐという理由で、

役割を週単位で変えていた。ヒヒの耳に入っ

た時の担当はIさんだった。年齢は40歳で、

政治思想は極右で、学がなくて話し下手だっ

た。訓練中Iさんがヒヒから呼ばれ、作業終

了後に「高声交談をしないように周知するこ

と、次巡回に注意されることがあればホール

制限(交談禁止)をかけるからな」と言われ

作業終了後にIさんが皆の前に立ってヒヒか

ら言われた通りに周知した。緊張でガチガチ

でグダグダだった。Iさんとは居室が隣で、A

工場で同じこともあり誘われたら話すことが

あった。夕食後の余暇時間にIさんと話して

いたのだが、さっき高声交談を注意したのに

既にもううるさい。そこにSさんがきて、

「いやぁ、人数少ないのにほんとウルサイで

すよね」と言った。そしたらIさんが「もう

こうするしかないですね」と言って机を右手

の平でバチンと強く叩いた。一瞬で静かにな

り、皆が俺達3人が座ってる卓を見ていた。

周りを見渡したら、20代前半の1番うるさ

いグループの何人かがIさんにガンたれてい

た。Iさんもそれに気付き「アッ」と言って

いた。Iさんよりは俺の方がそいつらと話す

機会はあったので、「おいお前らちょっと来

いや」とこちらの卓に呼びつけた。「てめえ

らがうるせえからこうなってんのに、何でI

さんを睨んどるんや」と聞いたら、「睨んで

ないですよ」と返してきたので、「睨んでる

からこうなってんじゃないとや、とりあえず

Iさんに謝罪しろ」と更に返したら、「刑務

所まできてこういう争いは辞めませんか」と

開き直ってきたので、「お前らここで喧嘩す

るのと、残りの訓練期間居室でずっと過ごす

のどっちがいいや」と詰めたら当然「どっち

も嫌です」と言ってきたので、机をバチンと

叩き、立ち上がってマウントとって居室着を

使って首でも締めてやろうと思ったら、職員

専用ドアがガチャンと開き、「お前達そこの

壁側向いて立て」と巡回担当が3人入ってき

た。恐らくIさんが机を叩いた時点で相当の

音が出ていたので、マジックミラーの内側か

ら成り行きを監視していたのだろう。それに

してもIさんにはガッカリした。やりっ放し

で後の対処もすることが出来ない素人さ加減

に普段散々でかいこと言っておきながらこれ

かよと内心毒付きながら、Iさん、俺、若い

グループの3人が処遇調べ室へと連行になり

喧嘩事案で調査となった。あと3週間で半年

職業訓練が終了するというのにもったいね

えことしたなとは思ったが、増刑にならなけ

れば満期でもいいという考えがあったので、

別にいいやという気持ちに変わり、閉鎖ユニ

ットへと連行された。