完黙を貫いたので無罪主張で戦う事に決め、ホリエモンの徹底抗戦を買った⑭
留置所では朝食を食べた後、30分くらい
経ってから運動が行われる。運動の際に髭を
剃ることができる。運動といっでも誰も運動
する人などおらず髭を剃った後は各々が話し
をしている。話す気など起きず、髭を剃った
らSさんやその周りに挨拶だけ行い、直ぐに
房に戻って本を読むのがルーティン化してい
た。N弁護士事務所所長のN先生が面会に来
た。N先生は起訴されたので、高い確率で実
刑になると言ってきた。そして、「本当にや
っていないのか」と詰問してきた。仮にやっ
ていたとしても、無罪主張するならそうする
が、こちら側から新しい証拠を示さない限り
難しいとはっきりと言ってきた。新しい証拠
など出てくる筈もなく、どうせ有罪で実刑に
なるのであれば、罪を認めて少しでも安い判
決を下される方が合理的だと頭では分かって
いるのだが、往生際悪く、認める決心がつか
ない。N先生も俺がやっていると疑ってる。
「少し考える時間をもらえますか」
と伝えたところ、
「分かりました、いつでも連絡下さい」
と言ってくれた。N先生は父親とも連絡を取
り合っており、「お父様は本人が本当の事を
話すのを望んでる」という事を伝えてきた。
大親友の方に連絡をとって起訴されたことを
伝えて欲しいということと、後輩に○○署に
パクられているので面会に来て欲しいという
旨を伝え、携帯電話の託下げ願いを申し出し
て、その日の面会は終了した。
裁判で罪を認めるか、それとも無罪主張で争
うかどうすればいいのかで心が揺れていた。
ただ完黙を貫いたこと、弁護士や両親に対し
てはやっていないと嘘をつき続けていること
証拠がとぼしいので無罪を勝ち取れる可能性
を考えれば、無罪主張で公判に望む気持ちの
方が強かった。弁護士と面会した翌日、後輩
が面会に来てくれた。いつもニコニコしてい
る奴で、今日も相変わらずニコニコしていた
俺が援デリの仕事をしているのを知っていた
ので、てっきりその件でパクられたと思って
いる。「罪名は何ですか」と聞いてきたので
「強盗」と短く答えたら、笑顔が消えて、
目を見開いて「強盗ですかぁ」と大きな声を
出して驚いた表情になった。
「3年前のことで、○○の路上でナイフを
突きつけて金をとったことになっているが、
やっていない」と伝えたら、「でも起訴され
たんですよね」と言い、「もしも有罪になっ
たら何年くらいうたれそうですか」と聞いて
きたので、「弁護士が言うには、4~6年の
間と言っていた」と答えたら、何も答えずに
心配そうに俺の目を見ていた。「もし有罪に
なったらしばらく会えないけれど頑張れよ」
と言ったら、「絶対待っていますので、頑張
って下さいと言ってくれた。」目には少しだ
け涙を浮かべていた。「カード渡すから銀行
に行って30万おろして、長袖のTシャツに
スウェットのズボン、パンツに靴下それとホ
リエモンの本の徹底抗戦を買ってきてくれ」
とお願いした。
銀行カードの託下げ願いを申し出した。
最後に「銀行の暗証番号は弁護士に教えてる
から、弁護士に電話で聞いてくれ」と伝えた
面会室から退室する後輩を見送る。
ドアの前で振り返り、こちらに一礼をしてき
たので、右手を上げた。後輩は相変わらず
心配そうな表情を浮かべていたので、努めて
明るく振る舞い、右手をふった。翌日の午前
中早速お願いをした品を差し入れてくれた。
頼んでいない本もあったが、それは後輩
チョイスで買ってきてくれた品だった。
忙しい中、直ぐに対応してくれたお礼と、
手間賃として1万円を渡した。