刑務所獄中記【人の不幸は甘い蜜】刑事施設拘束1530日

自分よりも不幸で不運な人がいることを知ることで、悩んでいる人や迷っている人に少しでも元気を与えることが出来れば良いなと思います

拘置所の面会室で約5年ぶりに両親と再会することになった⑯

公判前に地方都市から両親が拘置所へ面会に

来てくれた。素直に嬉しい反面、申し訳ない

という気持ちから会うことに対しての気まず

さがある。面会室のドアに備え付けられてい

る小さな扉を刑務官が開けて、「両親で間違

いないか」と聞かれ、確認し、「間違いあり

ません」と答えた後に刑務官が面会室のドア

を開けて入室した。還暦を迎えた両親と約5

年ぶりの再開となる。久しぶりなので互いに

笑顔で挨拶を交わした。俺と会う前に弁護士

と話しをしているみたいなので、どういう事

件、内容かは知っていた。話してしるうちに

両親の笑顔は消えていき、母親の困惑した顔

が印象的だった。父親は厳しい表情に変わり

「自業自得だ、因果応報だ」とキツイ目つき

をしながら言い放った。子供の頃父親には激

しい暴力を加えられていた。しかも母にも暴

力を振るう。母の必死で涙を堪える姿を思い

出し、内心「てめえの暴力的な性格も影響し

ているんだからな」と思いつつも黙って聞い

ていた。「実刑は間違いない。3〜4年くら

いであれば我慢できると思うが、6〜8年に

なれば本当に辛い。耐えれるか分からない」

と安定剤のせいで呂律が回らない震えた声で

言った。2人とも心配そうな目で見ている。

「自分と戦わないといかん」と父親は胸に手

を当てながら励ます様に言った。あっという

間に面会時間の30分が過ぎ終了となった。

帰り際、部屋から出ていく両親の表情は来た

時とは大きく違い、悲しみで溢れていた。

両親が帰ってからしばらくして、N弁護士が

面会に来た。面会が終わった後、父親からN

先生の元へ電話があったみたいだ。両親共に

俺のことを信用しているから、公判では正直

に話して欲しいということを言っていたみた

いだ。その言葉を聞いた瞬間、一気にこみ上

げてくるものがあり、涙が溢れてしまった。

今まで散々自分の好き勝手に生きてきて、親

孝行の1つもしたことがなく、迷惑ばかりか

けてきた俺に対して、その様な言葉をかけて

くれるなんて、なんて優しいんだと思いつつ

も自己嫌悪に陥った。両親が公判を傍聴にく

ると緊張してしまうので来ないで欲しいと伝

え了承してもらった。N先生に事件当時の置

かれていた環境、信頼していた友人の裏切り

凶器はどのようにして準備をし、どのタイミ

ングで実行に移したか、なぜ被害者をターゲ

ットにしたのかなどの詳細を話した。それを

元に公判での被告人質問や情状酌量を狙って

いくみたいだ。被告人質問の資料は出来上が

り次第郵送するので目を通して欲しいと言わ

れた。もう後戻りは出来ないと言い聞かせな

がらも、本当にこれでいいのかと葛藤してい

た。拘置所の面会室から自室へ戻る為、◯棟

◯階の長い廊下を歩いていた。廊下の両側の

居室には自分と同じ被告人がいる。本を読ん

でいる者や、書き物をしている者、自室の窓

からこちらを覗いて来る者と色んな奴がいる

なと思いながら歩いていた。自分の居室は奥

の方なので、結構歩かなければいけない。

もうすぐ自室に到着というところで、居室の

窓いっぱいに顔を近づけて笑っている者がい

る。確かそこの居室は面会に行く前は空室だ

ったはずだ。どこかで見た顔だなと思い注視

すると、◯◯留置所で共に語り合った詐欺の

リーダーのSさんだった。9ヶ月近く留置所

で身柄を拘束されていて、早く拘置所へ移っ

て公判で刑を確定させて早く刑務所で努めた

いと言っていたので、口パクで、「おめでと

うございます」と言ったら、頭をちょこんと

下げて応えてくれた。嬉しかった。縁を感じ

た。出所後会えたら良いなと思った