刑務所獄中記【人の不幸は甘い蜜】刑事施設拘束1530日

自分よりも不幸で不運な人がいることを知ることで、悩んでいる人や迷っている人に少しでも元気を与えることが出来れば良いなと思います

結審の日。前回同様傍聴席は満席。検察から求刑を言い渡される⑳

 

第2回目公判(結審)の日。初公判の時と比

べてよく寝付けなかった。どんよりと重い体

で朝を迎えた。今日で結審なので、申し訳な

い気持ちを伝えなければいけない。現時点で

既に緊張している。拘置所から裁判所へと移

送され、自分の番がくるまでは仮監で待つこ

とになる。そこにはよく喋るポンチュウ(シ

ャブを注射でキメる中毒者)がいたので、

前回みたいに何を話すかや、気持ちの整理を

つけることが難しかった。俺の番が回ってき

た。裁判所の裏の廊下を刑務官に連行されな

がら歩く。被告人専用の入退室ドアから法定

へと入る。前回同様、傍聴者は既に満席だっ

た。知っている顔も、記者クラブもいない。

安心したのだが、その代わりというべきか、

最前列で全身真っ黒の服の2人組の女の内の

1人がスケッチブックで俺の容姿を描いてい

る。当然良い気分はしないのでその女をジー

ッと見て「書くな」というサインを送るも、

女も俺の目をジーッと見て書き続ける。裁判

長の合図で公判(結審)が始まると、もう一

人の女が内容を筆記している。傍聴マニアや

ブロガーの類と思うのだが気になって仕方な

く、集中できなかった。検事や裁判官からの

質問と、被害者に対する謝罪の言葉も考えて

いたのだが、注意散漫と緊張で3割程度しか

話すことが出来なかった。いよいよ検察の論

告求刑だ。6〜8年だろうと覚悟していた。

公判検事から、「反省が見受けられない」等

散々言われた後6年の求刑が言い渡された。

予想していた求刑で最も安かったので、腹の

中でガッツポーズをした。弁護人の最終弁論

の後、被告人の最終弁論があった。弁護士か

ら自分の言葉で反省を述べるべきというアド

バイスに従い、「被害者にどれだけ謝罪をし

ても許されないことをやってしまいました。

刑務所で悔い改め、出所後は二度と犯罪に手

を染めることなく、正しい人生を送っていき

たいと思います」と延べ、閉廷した。2週間

後に判決が下される。求刑6年だったので、

5年位の懲役になるだろうと予想していた。

30歳になり、これから気合を入れて稼いで

いくぞと張り切っていたのに、これから5年

近くも拘束されると思うと胸が痛くなる。

胸が痛くなるという表現をメディアを通して

よく耳にはしてきたが、自分にはそれが分か

らなかった。だが今はそれがよく分かる。

非常に胸苦しく、心が痛い。2週間後の判決

のことと、事件がネットに検索ヒットするこ

とになってしまえば全うな仕事は出来なくな

る。夜の仕事や、アングラビジネスに手を染

めざるを得ない。だが現在置かれている様な

体験は二度としたくないので、出所後は絶対

に犯罪に手は染めない。かといって何かに特

化したスキルを持っている訳でもない。

じゃあどうすれば良いのか。株のトレーダー

にでもなるか、起業するか、そういう一連の

流れが堂々巡りしてしまう。先の見えない不

安と答えの出せない歯がゆさが精神を更に不

安定にして、胸をぎゅうっと締め付ける。

苦しい。繰り返す内に、次第に胸の苦しさが

エスカレートしていった。官本の「虚夢」、

作者、薬丸岳を一気読みした。刑法第39条

の精神病の疑いがある者は処罰しないとい

うことに対する疑問、被害者や被害者遺族

のやるせない気持ちを強く感じた。

自分の犯罪行為と重なり合う部分もあり、

被害者目線で被害者や被害者遺族の負った

心労やダメージ、恐怖といったものを考え

させられる内容であった為、自分のやった

ことは相当酷いことだと痛感し胸苦しくな

った。吸い込まれる様に一気に読破した。

 

事件を犯し、刑務所に行くからそれでチャラ

ではなく、被害者側は一生消えることのない

心の傷を背負って生きていかなければならな

い人も少なからずいる。PTSDやトラウマ

は大変辛いことであり、決して体験するもの

ではないと思う。今回、自分は被害者に対し

PTSDやトラウマを与えてしまった。

その行為は刑務所で懲役刑を何年か受けたか

らといって許されるものではなく、今後の人

生、懲役刑が終わってからも背負って生きて

いかなければならないと思う。終わった事は

いくら悔やんでも元には戻らないが、決して

忘れてはならない。改めて自分のやってしま

った事件の重大さ、それに巻き込まれた人達

に対する申し訳なさ。悔やんでも悔みきれな

い申し訳なさで胸が苦しくなり、心が圧迫さ

せられた。