刑務所獄中記【人の不幸は甘い蜜】刑事施設拘束1530日

自分よりも不幸で不運な人がいることを知ることで、悩んでいる人や迷っている人に少しでも元気を与えることが出来れば良いなと思います

裁判所差押え令状持って警察がやって来た。罪名はまさかの⑥

Mが補導されて3ヶ月が経とうとしていた。

広告代理店の事務所周辺をいつになくパト

カーが巡回している。事務所から30メート

ル近く離れた路上には紺色のCROWNが停

まっていて、車外にはCROWNと同じ紺色

のスーツを着た180センチはありそうな大

柄で40半ばくらいの堅気には見えない男が

チラチラと事務所の方を監視している。

パクリに来るならせめて友人の結婚式から戻

ってからにしてくれ、それからだったらいつ

でもいいから、どうせ執行猶予なんだからと

高を括っていた。翌日、朝8時30分頃に玄

関のチャイムが鳴った。「あーあっ、ついに

来たか」という感じだった。分かってはいる

が、一応「どちら様ですか」と聞く。「◯◯

警察署の者ですが、◯◯さんですか」との問

に、「はい」と短く答える。「裁判所から差

し押さえ令状が出ていますので開けてくれま

すか」と言われ大人しく鍵を開けた。対面す

るなり、「裁判所から、PC、スマホ、鍵束

一式、本人確認書類の差し押さえ令状が出て

いますので押収します」と言われた。何のこ

とか分からないと白を切った態度で「何の罪

名ですか」と聞く。そしたら後から入ってき

たコインパーキングでインカムしていたデコ

が、「そんなの自分で分かるでしょう」と馬

鹿にした口調で言ってきた。「分からないか

ら聞いているんですよ」と少し強い口調で返

したところ、TOPの指揮官の係長から、

「強盗」と睨みつけながら言われた。強盗と

聞いた瞬間、頭が真っ白になった。一体何の

ことか分からなかった。本当に思いあたる節

がない。しばしの間フリーズしていた。部屋

の中を7〜8人程の捜査員に埋め尽くされて

ほんの20分程度の時間で対象品を差し押さ

えられた。ベランダを開けて一服しながら過

去の記憶を辿っていく。逃走を警戒して、す

ぐ近くにコインパーキングのインカムのデコ

がぴったりと張り付いている。隣の区の警察

ということは、◯◯でやった事件ということ

になる。そこに考えを一点集中させる。煙草

を灰皿に押し潰している時に鮮明に事件の事

を思い出した。約3年前に路上で起こしたタ

タキ。起訴されたら実刑確実だというのは明

らかだった。だが何故今になってめくれたの

かが分からない。武器や服など犯行に使用し

たモノは全て処分した。証拠は残っていない

筈なのに、分からない。血の気が引いていく

のが分かる。差し押さえが終了し、TOPの

指揮官の係長から、「これから一緒に警察署

に来てもらいますので」と言われ、大人しく

従った。逮捕状は持ってきていない。あくま

で差し押さえ令状だ。差し押さえられたスマ

ホやPCに強盗の事件に関連する証拠は残っ

ていない。そもそも強盗の事件なのに、スマ

ホやPCを差し押さえる必要があるのか?こ

れはあくまで援デリの方をめくりに来たとし

か思えなかった。任意の調べで自供さえしな

ければ逮捕されることはない。エントランス

前に停まっていた白のワンボックスの捜査車

両の後部座席に誘導されて乗り込んだ。◯◯

警察署に連行されている間中、絶対に自供は

しない。完黙を貫くと繰り返し自分に言い聞

かせていた。逮捕状はあるのかという聞きた

くはないが、聞かずにはいられない質問を隣

に座っている指揮官TOPの係長に聞いた。

係長はこちらには見向きもせず、前方を見な

がら「ある」と小さく頷くだけだった。自供

を引き出す為の脅しだと都合の良い様に判断

するも、本心は長い勾留になるのだろうなと

考えるもう一人の自分がいる。今迄の人生の

中で今が最大のピンチだとも思った。1週間

後には地元に帰省して友人の結婚式に参加す

る為にスーツも新調したし、航空券も既に購

入していた。両親の還暦を祝う為にお店も予

約していたのに、せめて戻ってきてからパク

リに来て欲しかった。全部おじゃんになって

しまった。母さん父さんの顔が思い浮かぶ。

心底迷惑ばかりかける親不孝者でゴメンと溜

息をつく。そういうことを考えているとすぐ

に◯◯警察署に到着した。門扉が開かれて

20〜30人程のデコ御一行が迎えの為に待

っていた。そんな大げさお迎えは必要ねえよ

、もっと悪い奴捕まえる為に働け税金泥棒が

と内心毒づいていた。最も心配していた報道

陣がいなかったことは不幸中の幸いだった。