刑務所獄中記【人の不幸は甘い蜜】刑事施設拘束1530日

自分よりも不幸で不運な人がいることを知ることで、悩んでいる人や迷っている人に少しでも元気を与えることが出来れば良いなと思います

最初で最後の大物組長さんとの話しなので、遠慮なしに質問した⑨

 

1時間位眠っていたと思う。組長さんの方を

見たら同じ姿勢で白い壁にもたれかかってい

た。失礼な事をしてしまったと思ったので体

を起こして、「すいません、いつの間にか寝

てしまっていました」と謝ったら、「自分と

の闘いだから疲れたんだろう」と笑顔で言っ

た後、こちらに気遣う様に「遠慮はせずに何

でも聞いてくれて構わないからな」と言われ

た。俺みたいな小僧に優しい言葉をかけてく

れる組長さんの懐の深さに感動した。

こんな大物と話しをできる機会なんて最初で

最後だと思ったのでお言葉に甘えて遠慮なし

に率直に色々な事を質問させてもらった。

「K・RのRが破門されてますが、ヤクザの

世界では通用しないということでしょうか

?」という質問に対しては、「ヤクザの世界

では、自分がどうのこうのというより、どれ

だけ組の為にやれるのかという事が一番大切

なことだ」と言っていた。「去年の12月に

K区AでC・DとY系組員がドンパチして

C・Dが勝ってしまいましたが、C・Dみた

いな半グレは掛け合いなんてしても無駄な輩

なんでしょうか」という質問に対しては、

「そんなことはないよ。以前、C・DがI知

事を拉致するという情報をキャッチして、

C・Dの頭を組事務所に呼び出して、Iは俺

達の仲間だから、少しでもおかしな行動をし

た場合は報復をすると伝えたら、直ぐに詫び

をいれてきた」と言っていた。K・Rは見て

くれだけで、C・Dは組織としてしっかりと

成立しているなと感じた。他にも、九州のD

会に関しては、「絶対に引かなくて、Nさん

とは懇意にしている。D会の顔を立てる為に

N会とは一切付き合いはしない」と言ってい

た。N会に関しては、「金は持っている」と

言っていた。「K会が警察に壊滅寸前までや

られていますけど、やっぱり一般人に手を出

した事が大きいのですかね」という質問に対

しては少し顔を歪め、ただ頷くだけだった。

俺が九州の組関係のことをまあまあ知ってい

たので、その話題で少しは盛り上がった。途

中二度程自分達のいる仮監獄の前を通り過ぎ

るヤクザが立ち止まり「まさかこんなところ

でお会いするとは思ってもみなかったです」

と深々と頭を下げるや、直ぐに立ちあがり、

「いつもご贔屓頂きまして、誠に有難う御座

います」と丁寧に頭を下げ返していた。正に

"実る程頭を垂れる稲穂かな"という言葉が

ピッタリと当てはまった。組長さんとの話し

は衝撃的で本当に楽しかった。男として格好

良いと本気で思えた。翌日の昼前に組長さん

は釈放されることになった。出る直前に急に

「下の名前は何というのか」と聞かれた。

答えても良いのかと返答にためらっていると

「手紙を送りたい」ということだったので、

名前の呼び名と漢字を伝えた。仮監獄から

出て留置所の出入り口に向かう途中に組長さ

んがこちらを見ながら笑っている。俺には頑

張れよという笑いに見えた。正座をして深々

と頭を下げて見送った。翌日、速達で和紙3

枚分の手紙と現金が届いた。律儀さに感動し

た。手紙に書かれている内容はその時には理

解出来なかったのだが、後の拘置所、刑務所

で何度となく励まされるようになり、何度も

繰り返し繰り返し読み返すうちに、暗記出来

るまでになってしまっていた。