刑務所獄中記【人の不幸は甘い蜜】刑事施設拘束1530日

自分よりも不幸で不運な人がいることを知ることで、悩んでいる人や迷っている人に少しでも元気を与えることが出来れば良いなと思います

懲罰が明けて配役された工場はジャンキー懲役だらけ㊶

懲罰が終わり、改に配役された前日に職業訓

練から戻って来たHと、翌日に配役された新

入のMと自然の流れで空いている4人用の卓

で話すことになった。Hは薬遊びが大好きだ

った。娑婆にいる時は主にシャブをしていた

が10代の頃は主に脱法ドラッグにどハマリ

して、自力では辞められない迄に中毒になっ

たのを母が心配して精神病院へと連れて行き

、入院をして脱法地獄から抜け出す事が出来

たが、次はシャブへと手を出したみたいだ。

シャブ中独特の口の臭さと、これは薬が関係

しているか分からないが、20半ばにして既

に頭頂部が皿型に薄くなっているのが可笑し

かった。Mは薬遊びはしていないということ

だが、興味はあると言っていた。MはHとタ

メ年だが、互いに敬語で話しているのが面白

かった。安定剤や眠剤を服用しているのは3

人の内俺だけだったので、投薬の時飲んだふ

りをして唇と歯茎の間に隠して隠匿をし、薬

を溜め込んで週末に2人に配り、3人で薬遊

びをする様になった。周りに気付かれない様

に「キマっている時こそ冷静でいるように」

と言うのだが、若い二人は「分かりました」

と言うのだが、暫くすると高笑いや話し声が

どんどん大きくなっていく。自分の20代半

ばの頃を思いだすとこうなるのも仕方ないと

思う様になり、注意しなくなった。F工場は

薬遊びする懲役がとても多かった。ゼロ銭

(領地金0円)の懲役が、82円切手一枚と

デパス1個のレートで商売をしていた。その

溜まった切手の金額と同等の日用品(石鹸や

シャンプー)を交換することで極力報奨金に

は手を付けずにいた。ジェネリックなので薬

の単価もかなり安い。1個5〜7円程だ。そ

れでも10倍以上の価値を持つ82円切手と

交換するのだから、刑務所においての薬の需

要は半端ないと感じた。俺はそんな乞食みた

いなことはしたくないしHとMの3人だけで

楽しめればそれで良かったので、他の卓のジ

ャンキー懲役からオファーを受けても断って

いた。Mもそんな俺の考えを察してくれて、

ある分だけで楽しむようにしていたのだが、

Hは違った。週末キメて3人で話しをしてい

ても、鼻をズーズーと鳴らしながら、「足り

ないですね、追いたいですね」とそういうこ

とばかり言うようになった。土、日分用とし

て5発あげていたので「H、何発いったの」

と聞いたら、口元に型を付けて貧乏揺すりを

しながら、「5発ですね」と答えた。Mも俺

も土曜に3発、日曜に2発という風に分散し

て遊んでいたので、一度に全部キメるHのジ

ャンキーさには流石に引いた。そしてあろう

ことか、デパス商人に交渉に行ったのだ。

「10個イケるか」と聞いたら、何時でも良

いということだったみたいなので、直ぐに取

引していた。デパスを受け取り、一度居室へ

と戻り、暫くしてからズーズーと鼻を鳴らし

ながら戻ってきた。「何発いったの」と聞く

と、「5発っすね」と答えたので、「良い感

じ」と聞いたら、「さっきよりは良いですが

もっとキマりたいのでキメてきます」と言い

居室へと戻って行った。そしてまた鼻をズー

ズーと鳴らしながら戻ってきて「やっと良い

感じです、これ位いかないとダメっすね」と

上機嫌で言った後、「二人とも燃費良いっす

ね」と言ってきたので苦笑いしてしまった。

就寝時に飲んでいる強烈に眠くなる薬をHに

追わせたらどうなるのかを見たくなった。H

に、「強めの残っているけどいって見る」と

聞くと「ハイ」と即答だったので居室に取り

に戻りHに渡した。「午前中はもう時間がな

いから、夕方話せる時間の前にキメてきてよ

、でもほんと強めだから鼻からじゃなく口か

らいく方が良いと思うけど、それは任せる」

と言ったら、「分かりました、有難うござい

ます」と頭を下げてきた。薄い頭頂部から姿

を見せる頭皮には、汗が滲んでいた。